ニコニコ桜今津灯保育園

暮らしに土を 園児数:120名


おそらのひろば

2階屋上に設けた屋外遊戯場です。あつさ45cmの真砂土を載せ、四周に視線や音をさえぎるための塀をまわしました。左端は、地域の象徴である今津灯台を模した木製遊具です。

はらぺこほーる

配膳カウンターは調理室床を下げ、高さ50cmで設定しました。階段下には、絵本のあなぐらがあります。

階段

手摺壁には、たくさんの格子窓を設けています。こうすれば、上から覗かなくても向こうが見えるので、乗り越えて落下する事故がそもそも起こりません。無粋に物理的に防ぐのではなく、行動を誘導する防ぎ方です。

保育士工房

壁面いっぱいの可動棚を設けた保育士工房です。製作中のおもちゃや大道具が、途中でほったらかしにできる専用室です。「ほったらかし」と聞くと行儀悪く感じますが、実は、無駄な片付け時間が無くなり、短時間ごとの小刻みな継続作業ができる、作業効率アップの方法です。

ごはんのまど

調理室と乳児の保育室を隣り合わせにし、受け渡し窓を設けています。給食の配下膳が直接できるので、栄養士が乳児の食の状況を把握しやすく、乳児担当保育士とのコミュニケーションも取りやすくなります。

外観

冠瓦や木格子を切妻園舎に組み合わせて、和の雰囲気を加えた外観となっています。アクセントカラーは、いつしか「桜餅色」と呼ばれるようになり、園舎のあちこちで使われています。


暮らしに土を

敷地に余裕が無くとも、屋上に土を盛れば緑豊かな園庭ができます。都市部では園庭のない園が増えていますが、これは残念ながら、子どもの暮らしの豊かさよりも数合わせを優先させる、私たち、大人の意思です。土が子どもの育ちに与える影響はとても大きいですね。草花や木々を育み、虫や鳥などのさまざまな命を引き寄せます。意のままに形を変える創造の素材となり、転べば痛みを教えてくれます。畑では収穫の喜びを与えてくれますし、それを食す体験もできます。土だけの殺風景だった屋上は、当地のシンボルである今津灯台を模した遊具が置かれ、野菜畑ができ、築山が盛られ、植樹祭が開かれるなど、土の上にたくさんの遊びの要素が付加され、少しずつ庭が豊かに育っていきます。使い手が自由にその形態を変えていけるのも土の持つ力です。均質化した無味乾燥な街に生きる子どもたちに、私たち大人が提供すべき大切なもののひとつでしょう。園舎は、北向きであることを活かして過剰に闇を消すことをせず、落ち着いた色合いと木格子を組み合わせ、和の雰囲気を感じるしっとりとした生活空間になるように心がけました。冬場は、特殊付帯工事補助対象の夜間電力を使った蓄熱式床暖房が園舎全体を優しく暖めます。クックギャラリーや保育士工房、階段下のえほんのあなぐら、病児保育室、ごはんのまど、乳児専用園庭、通り抜け押し入れなど、生活にかかわる大小さまざまな要素を盛り込み、豊かな暮らしと幅のある保育を下支えする器を整えました。


名称:社会福祉法人長陽会 ニコニコ桜今津灯保育園

工事種別:新築

建築場所:兵庫県西宮市

延床面積:813.73㎡

構造規模:鉄骨造 地上2階

園児数:120名

掲載:『近代建築』 2019年10月号第73巻10号(特集 保育施設の計画と設計)

   『心を育てる保育環境』 早稲田大学人間科学学術院 佐藤将之著 小学館

受賞:株式会社四国化成工業『四国化成空間デザインコンテスト』シルバー賞